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青天の霹靂! わたしが社長!? PAGE5

last update Last Updated: 2025-10-01 15:24:30

「――佑香、ご苦労だったな。今日は驚かせてしまってすまなかった」

「あ……、うん。お父さん、お疲れさま。別に謝らなくてもいいよ。驚きはしたし、突然すぎて理解が追いつかなかったけど」

 総会が終了した後、父はわたしをねぎらうとともに謝ってくれた。

「そうか。それならいいんだ。母さんには話してあったんだがな、お前には怒られたくなくて黙っていたんだ。許してほしい。でも、お前が断らなくてよかった」

「……そりゃあまぁ、お父さんがそこまで期待してくれてるなら、わたしもそれに応えたいしね。でも、引退した後、お父さんはどうするの?」

「父さんは来月いっづけで会長になる。お前の相談役も兼ねてな」

「そっか、会長ね。じゃあ、もう経営の表舞台には出てこないってこと?」

「まあ、そうなるかな。でも精一杯、お前のバックアップはさせてもらうよ。だから安心しなさい」

「うん。お父さん、ありがと」

 まだ素人しろうとみたいなものだし、わたしひとりでこの大きな会社を経営していくのはない。父が色々とサポートしてくれるならわたしも安心だ。

「――ところで、わたしの秘書は誰がやってくれるの? そのまま村井さんと野島さんが?」

「ああ、そうなんだが……。第一秘書は野島君に、第二秘書を村井君にやってもらおうと思う」

「えっ、野島さんが第一秘書? ホントに?」

 わたしはそう聞いて、思わず耳を疑った。父は多分、わたしが彼に好意を抱いていることは知らないはずなのでただの偶然なのだろうけれど。わたしにとっては嬉しいサプライズ人事だ。

「なんだ? 佑香、嬉しそうだな」

「……えっ? そっ、そうかなぁ? そんなことないと思うけど」

 はしゃいでいると、父が不思議そうに首を傾げた。

(いけないいけない! 佑香、ここは会社! しかもお父さんの目の前なのよ)

 心の中で自分をたしなめ、別の話題に切り替えることにした。

「そういえば、どうして新社長にわたしを指名したの? みな副社長もいるんだから、順当にいけば新社長はあの人なんじゃないの?」

 南井かず副社長は、現在この会社のナンバーである。父がそんな人を差し置いて、どうして娘であるわたしを指名したのか、その理由をどうしても知りたかった。

「う~ん、そうなんだがなぁ……。あの男は信用ならないからな」

「……はあ」

「それより佑香、そろそろ昼休みだが。どうだ、たまには父さんと昼食にしないか? 上手い店に連れて行ってやるぞ」

「ううん、わたしはいつもどおり社食に行くよ。友だちとランチした方が楽しいし」

「……そうか」

 父は残念そうだけれど、お昼休みには萌絵と平本くんと三人で社食に言ってお昼を食べるのが、入社当時からわたしの習慣になっているのだ。それは社長になってからも変えるつもりはなかった。

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